当該研究課題の成果はASME・DETC2003での1件、日本設計工学会東北支部学術講演会1件および精密工学会学術講演会2件にて公表した。一般に実用に供される射出成形プラスチック歯車は歯車強度の観点から薄い変質層が要求される。しかし、静音性への要求が高まる中、メンテナンスフリー歯車の開発も望まれ、射出成形プラスチック歯車に生じさせる変質層を積極的に利用する提案は射出成形プラスチック歯車の静音性に有用である。本課題では静音性に優れたプラスチック歯車の開発の一助とするため、結晶性樹脂の射出成形プラスチック歯車の歯に生成される成形変質層が射出条件によってその厚さと機械的性質が影響されることを示し、各種成形条件で作られた歯車の騒音および磨耗特性を検討した。本課題ではポリアセタールコポリマとホモポリマの2種類の樹脂を選び、種々の成形条件で射出成形した。2種類の材料の歯車特性は共にシリンダ温度より金型温度によって変質層の大きさが変化し、金型温度が低いほど変質層厚さが大きくなることが偏光顕微鏡観察から判明した。さらに、歯車の歯の機械的性質と同時に変質層深さを推定できる微小硬さ試験から、歯の内部深さに対する硬さは内部ほど増す傾向を示した。歯車の騒音は精度により大きく左右するため、歯形試験歯筋測定等を行ったが、歯車の精度はJIS4級以内であった。これらの歯車の騒音と磨耗は、動力吸収式歯車試験から、変質層厚さが薄い歯車ほど騒音レベルが高く、変質層の厚さが大きくなる金型温度の低い条件で作った歯車ほど変質層による衝撃吸収、自己潤滑効果が高まり、全域にわたって騒音レベルが低くなることが明らかになった。歯車の磨耗では軟質な変質層の大小に起因し、樹脂の固化温度と型温度の差が大きい条件で作製した歯車において歯車の磨耗が増加する傾向を顕著に示した。以上の研究から低騒音プラスチック歯車の射出制御に関する開発資料を示すことができた。
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