水滴の衝突による「気泡のイレギュラー取り込み」について広範囲な実験を行った。その結果、イレギュラー領域には少なくとも3種類の空気泡形成のパターンがあることを明らかにした。一つ目は、収縮する変形水面に衛星滴が衝突して空気泡が分離される場合。二つ目は発達した水柱が降下して水中に完全に沈み込む直前に現われ、真横および斜めからの瞬間写真撮影によると、水柱底部の空気層が閉鎖されると短時間で不安定に分裂を起こし微細気泡群を生成すること。その後これらの幾つかが合体してよりきな複数の空気泡になるものと推測できた。三つ目は最初の原因で発生した空気泡が、やがて水柱へと発達する変形水面の上昇運動に引き込まれて水柱内部に取り込まれる場合。水柱が落下するとき空気泡は再び水中に解放される。第3の原因で生成される空気泡は微弱な圧力変動にさらされるため、強い音響発生には至らない。これに対して最初の二つの原因による空気泡形成の場合には、その際の圧力変動(表面張力+水圧ヘッド)によって空気泡は適度な振動を繰り返し、水中に過渡音響を放射する。 イレギュラー領域の中には、衛星滴の衝突に起因する気泡音が非常に再現性良く発生する条件があることが明らかとなった。これに対して第2の原因による空気泡の取り込みと気泡音の発生は極めてランダムであり、発生する音域の範囲は広い。この第2の空気泡生成機構については更に高い時間分解能の光学観察が必要であり、今後の課題となった。なお得られた結果に基づいて水滴直径7.2mmおよび落下高さ420mm条件で水滴を水瓶内部に滴下し、実際の水琴窟に極めて近い"コーン"という澄んだ音の発生に成功した。
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