研究概要 |
血管壁の内膜に位置する平滑筋細胞表面では,血管内壁からの浸透流により20dynes/cm^2程度のせん断応力が作用することが予想されている。このせん断応力の大きさは血管内壁の内皮細胞に作用するせん断応力と同程度の大きさに達することから、平滑筋細胞の生理学的機能に大きな影響を及ぼしていることが予想される。特に動脈硬化病変の前駆症状である内膜肥厚が細胞の機能異変による異常増殖が原因であることを考慮すると、平滑筋細胞の機能異変に浸透流によって誘起されるせん断応力が深く関わっている可能性が強い。本研究では流体力学的せん断応力と細胞の生理学的活性機構の関係について明らかにすることを目的とし、せん断応力によって誘起される細胞内Ca^<2+>シグナル伝達機構と生理物質吸収機構について調べた。 昨年度に引き続きCa^<2+>反応性発光タンパク(Aequorin)^-を用いた単一光子計数法による細胞内Ca^<2+>濃度測定を行った。せん断応力負荷後に急峻な立ち上がりを持つ発光が観察されたが、発光は数分以内に指数関数的に減少した。このことにより平滑筋細胞でのせん断応力負荷によるCa^<2+>流入は即応性であることが分かった。また、細胞内のCa^<2a>ストアの阻害剤であるタプシガーギン(TG)を負荷して同様な測定を行い、発光が観察された。この結果から発光がせん断応力負荷による細胞外からのCa^<2+>流入によるものであることが確認された。 また、血管壁内部の物質輸送機構の詳細を調べるために数値解析を行った。生理物質はLDL(低比重リポ蛋白)とATPを選定した。血管壁内部におけるLDLの輸送形態は対流律速型であるのに対し、小さい分子であるATPは拡散律速型であることが判明した。さらに平滑筋細胞でのLDL吸収率のせん断応依存性について調べた数値解析では、血管内腔により近い細胞で顕著なせん断応力に対するLDL吸収率依存性が見られた。
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