研究実施計画に基づき、1)希薄領域を含む気体流の決定論的な巨視的・微視的ハイブリッド計算法の開発、2)気体論スキームの剛体球分子ボルツマン方程式に基づく圧縮性NS方程式への拡張を行い、さらに3)新しい気体論スキームの開発および4)多原子分子気体への拡張を行った。1)では、BGK方程式の差分法の解と同方程式から導かれる圧縮性NS方程式に対する気体論スキームの解を接合するハイブリッド解法を開発した。この決定論的方法では従来のモンテカルロ法を使ったものとは異なり、両者の解は滑らかに接合され大きな問題は生じない。2)では、剛体球分子ボルツマン方程式から導出される圧縮性NS方程式に対する気体論スキームを開発し、さらに外力を伴う場合への拡張も行い、種々の問題を解析した。3)を始めるに至ったのは、従来の気体論スキームは衝撃波捕獲スキームであるが、境界層問題では古典的なラックス・ヴェンドロフスキームに比べはるかに性能が劣るという事情からである。本研究では独自の理論を構築し、その欠陥を克服する新しい気体論スキームを開発した。このスキームは従来の気体論スキーム同様ロバストで、衝撃波捕獲スキームであり、さらに境界層問題ではラックス・ヴェンドロフスキームと同等以上の性能を持つ(ラックス・ヴェンドロフに見られる小さいが望ましくない密度の振動も抑えられる)。このスキームの開発によって実用的なコードの開発にも目処が立った。わが国の数値流体力学の分野では、外国で開発された計算方法をベースに計算技術のみの改良を行う研究が目立つが、本研究は基礎理論の構築から実用的な計算法の開発まで独自のアイデアに基づいている。なお、1)〜3)では、研究代表者の指導の下、院生(修士)を具体的な数値計算に参加させて、彼らに海外発表の機会を与える等、教育上も大きな成果が上げることができた。
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