流体力学方程式の気体論を利用した数値解法に関する理論と応用の双方における研究を行い、以下の1〜6の成果をあげた。1.従来の気体論スキームはボルツマン方程式の数値解法であるDSMC法を模擬し、その数値フラックスには分子衝突の効果は考慮されなかったが、研究代表者はこれを考慮することで2次精度のスキームとしてよく知られたラックス・ヴェンドロフのスキームの拡張になることを示した。圧縮性流体の数値スキームでは、衝撃波近傍では数値粘性を大きくして振動を抑え、滑らかな領域では数値粘性を小さくして鈍りを少なくすることが要求されるが、気体論を用いることでこのような性質を持つ巨視量の再構成が容易に行えることを示した。2.1の知見を基に、衝撃波を鋭く捕捉し、さらに境界層を比較的低い解像度でも正しく捕らえることができる新しい気体論スキームを開発した。このスキームは種々の分子モデルに対するナヴィエ・ストークス方程式への拡張も容易に行え、実際、剛体球分子に対するナヴィエ・ストークス方程式や多原子分子気体に対するオイラー方程式の場合の計算も行った。代表者が構築した理論は学部学生でも容易に習熟できるほどで、1および2の研究の特色は簡単な理論を構築して高い性能のスキームを開発した点にある。3.海外共同研究者である香港科学技術大学のXu博士と高次の希薄化効果を含むバーネット方程式、スーパーバーネット方程式への気体論スキームの拡張を行った。4.希薄領域を含む気体流の決定論的な巨視的・微視的ハイブッド計算法の開発を行った。DSMC法の時間精度に関する研究を行い、その知見は新しい気体論スキーム導出の際に役立てた。6.修士課程の学生を具体的な数値計算に参加させて彼らに海外発表の機会(希薄気体力学国際シンポジウム)を与える等、教育面でも成果をあげることができた。
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