研究概要 |
食品の凍結保存は,原理的には,低温化と活性水分の低減により生化学反応の抑制を図るものであるが,凍結の過程で筋繊維レベルでのミクロ現象が生じ,これが各種の機械的・膠質的損傷を発生させる.したがって,食品の品質(食味,テクスチャー)を損なわない効果的な冷却技術の開発が必須となる.本課題は以上の観点に立って進めるものであり,パルスマイクロ波の付与により凍結過程における過冷却現象の能動的促進を追究する.すなわち,マイクロ波照射により,極性分子である水分子の回転運動を励起し,それにより水素結合しているクラスターを解離させ,過冷却の促進を実現しようとするものである.最終的には,食品全域を過冷却状態から瞬時に凍結させる方式の開発を目指すものである. 本年度は主に水溶液および食品組織体を供試した凍結実験を行い,過冷却度および氷晶径をマイクロ波の特性ならびに冷却操作と関連づけて実験的に追究し,以下の成果を得た. 1.試験セル,液体窒素を封入した冷却部,マイクロ波発生装置,熱電対を用いた温度測定系からなる装置が製作された. 2.マイクロ波照射下でグリセロール水溶液の凍結実験を行い,マイクロ波は過冷却の促進と解除の2つの作用を内在する可能性があることが示された. 3.食品としてリンゴ組織体を供試した凍結実験を行い,凍結組織をCryo-SEM観察した結果,マイクロ波出力が大きくなるにつれて組織体表層部において氷晶径が減少することが見いだされた.また,組織体内部ではマイクロ波による加熱効果などに起因する局所冷却速度の低下のため,氷晶径の微細化は難しく,適用サイズに制限があることが判った.
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