研究概要 |
海難救命用として、太陽熱利用の多重効用海水淡水化器具を考案した。本器具は、下面に蒸発ウイック、上面に凝縮ウイックを貼り付けた仕切りフィルムを6〜10枚、数ミリメートルの空気層を介して重ねた構造であり、毛管力により海面から海水を各蒸発ウイック全体に浸透させ、最上段からの蒸発は太陽熱により、2段目以降は凝縮潜熱により蒸発が生ずる。本器を海面に浮かべるだけで、太陽熱のみにより海水の蒸留が行われる。現在、逆浸透膜法の器具が広く利用されているが、これに対し本提案の器具は、体力消耗がほとんどなく、遭難者の長期の延命を可能にすると考えられる。本研究では、初めに、海水淡水化器具内の熱移動および蒸発・拡散・凝縮現象についての理論モデルを構築し、数値シミュレーションを作った。その結果、蒸発ウイック面の塩析出面積は小さく、塩析出近傍の海水濃縮による蒸発速度の低下は限定的であり、一日の日射量22MJ/m^2の晴天日に約15kg/m^2の蒸留が可能であることが明らかになった(Fukui, Nosoko, Tanaka and Nagata, "A new maritime lifesaving multiple-effect solar still design", Desalination投稿中)。これは、国際海事条約(SOLAS条約)の要求を十分満たす造水量である。 次に、モデル計算結果をもとに室内実験装置を設計、制作し、実験を開始した。蒸発ウイック中央部の限られた面積に塩析出が生じるが、その他の面からは蒸発が生じていることが観察された。今後、定量的測定を行い本器具の実用性を実証する予定である。
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