研究を行った海難救命用海水淡水化器具は、上方加熱式太陽熱多重効用型蒸留器を応用したものであり、海水を含んだウィック(布)を貼り付けた仕切りフィルムを狭い空気層を介して複数枚平行に配置した構造をしており、器具の上部は透明カバーで覆われる。最上部の仕切りフィルムが吸収する太陽エネルギーにより、フィルム下面に貼り付けられたウィックからから海水の蒸発が生じ、この水蒸気が2枚目の仕切りフィルム上面で凝縮するが、その際に放出される潜熱により、さらに2枚目のフィルム下面のウィックから海水の蒸発が生じる。この蒸発・凝縮の過程を全ての仕切りフィルムにおいて繰り返すことにより、太陽熱は何度も再利用され、蒸留量は増加する。本海水淡水化器具を理論的に解析し、日射量22MJ/m2dayの晴天日に約15kg/m2dayの蒸留量を予測し、その値はSOLAS条約の定める要求量をはるかに越えることを明らかにした。 本年度は、実用化に最も近い単純な構造の、カバーフィルムなし、かつ単段の海水淡水化器具を製作し、室内実験と屋内実験を行った。ウィックを貼付けるフィルム材としてウレタンと天然ゴムを用いた所、天然ゴムの方が28%高い蒸留量であった。蒸発面と凝縮面の間の蒸気拡散距離を7mmから5mmに狭くした所、蒸留量が83%増加した。また、蒸発面での塩析出面積は約4%程度であった。屋外および屋内実験の結果より、晴天日には約2.8kg/m^2の蒸留量が得られ、SOLAS条約の要求量を十分満たすことを明らかにした。
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