炭状物質は優れた物理的特性を有するため多くの工業分野に使用されている。著者の試作結果によれば、古紙を綿状にし、炭化・賦活すると市販の活性炭の70%以上の活性度を示す。それ故、活性炭等の炭状物質の原料を、再生紙以外に殆ど使用されていない古紙に求めるならば、経済性、省資源及び環境保護と言った観点から、極めて大きな意味を持つものと考えられる。 本研究では、古紙乾留プロセスの設計に不可欠な乾留過程を含めた綿状古紙の有効熱拡散率κおよび有効熱伝導率λを同時測定する方法を開発し、その設計資料を得ることを目的とした。 さて、古紙の乾留過程では、試料の収縮及び分解・発熱反応が発生し、通常の定速昇温法等の測定法を用いることはできない。そこで、著者は非定常熱伝導方程式の初期及び境界条件に実測値を用い、数値計算法により試行錯誤的にκ及びλを決定する独創的な方法を考案し、検討を行った。 即ち、物性既知の標準物質で作られた円筒容器に試料を充填し、その容器の側面を一様に連続加熱すると共に、装置内各点の温度を測定する。その後、非定常熱伝導方程式をそれら実測値を境界条件として用い数値計算法により解くことにより、境界条件を満足するκを試行錯誤的に決定した。また、κ決定に当たっては、試料及び標準物質である円筒内の温度分布が得られたことより、試料と円筒との境界における熱収支より熱伝導率λを決定した。 その結果、昇温過程における綿状古紙のκは、室温から250℃付近までは緩やかに増加するが、300〜600℃の領域で急激な増減を示し、その後次第に一定値に漸近していることが分かった。κの急激な増減の理由については、この領域で激しいガスの発生が見られることより、発熱を伴う分解反応が生じていることが考えられる。一方、同時に測定したλは、300〜400℃の領域で若干の増減が見られるものほぼ単調に増加することが分かった。
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