炭状物質は優れた物理的特性を有するため、多くの工業分野に使用されている。それ故、活性炭等の炭状物質の原料を、再生紙以外に殆ど使用されていない古紙に求めるならば、経済性、省資源及び環境保護と言った観点から、極めて大きな意味を持つ。本研究では、炭状物質の生産プロセスの設計に不可欠な乾留過程を含めた綿状古紙の有効熱拡散率κおよび有効熱伝導率λを同時測定する方法を開発し、その設計資料を得ることを目的とした。 古紙の乾留過程では、試料の収縮及び分解・発熱反応が生じ、通常の測定法を用いることはできない。そこで、著者は非定常熱伝導方程式の初期及び境界条件に実測値を用い、数値計算法により、試行錯誤的にκおよびλを決定する独創的な方法を考案した。 実験は物性値既知の標準物質で作られた円筒容器に試料を充填し、その容器の側面を一様に連続加熱すると共に、装置内各点の温度を測定することにより行った。その後、それら実測値を境界条件として用い、非定常熱伝導方程式を数値計算法により解くことにより、境界条件を満足するκ及びλを試行錯誤的に決定した。 実験の結果、昇温過程における綿状古紙のκは、室温から250℃付近までは緩やかに増加するが、300〜600℃の領域で急激な増減を示し、その後次第に一定値に漸近することが分かった。κの急激な増減の理由については、この領域で激しいガスの発生が見られることより、発熱を伴う分解反応が生じていることが考えられる。一方、同時に測定したλは、発熱反応が見られる300〜400℃の領域で若干の増減が見られるものの、室温から650℃までほぼ単調に増加することが分かった。 また、綿状古紙のλは、乾燥空気のλよりも高い値を示すこと、充填率が高いほど高い値を示すことなども分かった。この理由として、綿状古紙は紙の繊維と空気の混合物であり、紙の繊維が高い熱伝導率を示すためであると考えられる。
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