研究概要 |
乾燥床上に置かれた2自由度振動系の各質量部にDCモータで駆動された回転おもりを搭載し、2個のDCモータに加える電圧を接近させると、2個の回転おもりが自動的に約位相差πで同期回転し始め、振動系が推進することを予備実験で確認している。これは非線形力学系に特有の自己同期現象によるものである。 本年度は、この推進装置に現れる自己同期現象の発生メカニズムや、同期がはずれた状態で現れる非線形現象の発生様相を数値解析で明らかにすることに重点をおいた。 まず、自己同期現象に本質的な影響を与えない床・台(質量部)間の摩擦力を無視した数値解析を行ってみた。 (1)予備実験と同様に数値解析でもおもりの自己同期が確認された。しかし、おもりの回転数比が1:1の自己同期のほかに回転数比r:sの自己同期解も発生しうること、同期がはずれると概周期解やカオスが発生すること、自己同期、概周期振動、カオスのいずれが発生するかは初期値に依存することなど、このモデルの非線形現象がかなり複雑であることが明らかになった。ただし、最も発生しやすいのは回転数比が1:1の自己同期である。 次に、振動系の推進に本質的な影響を与える床・台間の摩擦力を考慮した数値解析を行った。 (2)粘性摩擦力では振動系は推進せず、クーロン摩擦力によって推進する。振動系の推進にはおもりの回転数比が1:1の自己同期が有効である。振動系の固有振動数よりも低い回転数で回転する場合,各台車のおもりは(予備実験で確かめたように)位相差πで同期回転する.また、推進速度が最大となるモータ電圧の最適値が存在する.モータ電圧が高いときには振動系はslip運動のみで推進するが、モータ電圧が低いとstick-slip現象が発生する。 以上のように、この推進モデルの特性が数値解析によって明らかになった。一方、実験の方は推進装置本体の試作を終えている。今後は、数値計算で得られた結果を実験によって検証すると共に、この推進機構の可能性や、より性能の優れた振動推進装置の設計指針を探っていく予定である。
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