研究概要 |
本研究の目的は,振動ピンアレイを用いて皮膚表面に刺激を与え人工的に触覚を生成する「振動ピン刺激法」に関して,心理物理データを得ることである.振動ピンの振幅とピン配置を所望値に設定可能な刺激生成装置を製作し,まず単ピンでの刺激条件について,振動振幅に対する感覚尺度の構成を実施した.振動刺激を受容する触覚受容器であるマイスナー小体およびパチニ小体の適合振動周波数である50Hzおよび250Hzにおいて,計測を行った結果,25μm以下の振幅範囲において,50Hzの場合で,平均4.5段階,250Hzで15.7段階の差閾の系列(振幅漸増時識別可能段階)の存在が確認された.絶対閾は,それぞれ7.6μm,0.64μmであり,これらの結果から250Hzの振動刺激が同一の刺激強度範囲で,50Hzより詳細な感覚,かつ小振動振幅まで有効に利用できることが示された.さらに,複数ピンの刺激条件の基礎特性として,両周波数における2点弁別閾を計測した結果,右手示指末節先端3分の一の部分に2本の振動ピンを軸方向に配置する条件で,50Hzで2.54mm,250Hzで2.34mmが得られた.さらに,150Hz,350Hz,および無振動の条件を計測した結果,250Hzにおいて最小値となることが確認された.複数ピンでの刺激条件に関しては,3本の振動ピンを使用して,仮現運動の生起特性を計測した.周波数を50,150,250Hz,ピン間隔を1.5,2,3mmとした場合について,振幅100μmの正弦包絡矩形バースト波が惹起する像の一体性とその形状の明確さを調査した.仮現運動の主要パラメタである刺激提示時間と提示時間間隔は,2ピンの時間的重複が60〜70%である時に最適時相となり最も明確な仮現運動が観測された.周波数依存性では150Hzの場合に,最も広い条件で明確な仮現運動が観測され,像の知覚高さでは50Hzの場合が最も高く感受された.像の粗さは,周波数の減少により増加した.これらの結果は,振動ピン刺激法に基づく触覚ディスプレイ設計のための重要な基礎情報を与えている.
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