研究概要 |
本年度は,14年度に設定された実験環境に基づいて,振動刺激により惹起される感覚の周波数依存性をより詳細に調査した.振動刺激を感受する受容器は,マイスナー小体とパチニ小体であるが,その特性周波数は約50Hz付近と250Hz付近と異なっているため,これらの周波数を含む4つの周波数(更に150Hzと350Hz)において,感覚尺度の構成を行なうことにより,設計上重要な基礎データを得た.右手示指末節(先端より4分の1の地点)において,直径0.5mmの単ピンで刺激を与える条件において,周波数の増加に伴って絶対閾は減少して350Hzで最小となり,また一定振幅(25μm)までの感覚強度レベル数も同周波数で最大なり,高周波数が振動刺激の利用効率の面で有利であることが示された.惹起される触感覚の印象について,粗さと明瞭度の観点からグラフ尺度による評定を行った結果,粗さは周波数の低下と振幅の増大により増加することが定量的に示された.触覚像の明瞭さに関しては,振動周波数の上昇に伴って増加し,また振幅の増大において増加傾向にある.高周波数では,小振幅の場合に明瞭さが低下したがこれは粗さの減少による感覚量の低下によると解釈される.これらのことから,振動刺激の触覚感受性を考慮すると,単一周波数において提示を行う場合は,絶対閾が小さく感覚強度レベル数が大きい250Hz-350Hzにおける駆動が適切であると判断される.更に,複数振動ピンによる触覚像提示においては,ピンの空間密度が重要であるため,その設計規範となる2点弁別閾の周波数依存性を調べた結果,250Hzにおいて最小値をとることが明らかとなった.最小値は受容器密度が高いマイスナー小体の特性周波数でなくパチニ小体の特性周波数となっているため,振動伝播による像の収束度が原因と予想したが,振動伝播強度の計測の結果は,250Hzが最大領域に伝播するという結果が得られた.これにより,パチニ小体は受容器密度が低いが空間定位特性が優れることが明らかとなった.
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