軽水素または重水素吸蔵パラジウム板を陰極として軽水素または重水素雰囲気中で放電を継続し、その間、NaIシンチレーション・カウンターによりガンマ線を計測した。さらに放電試行後にパラジウム電極に対するTOF-SIMSによる試料表面の元素分析を行った。その結果、重水素ガス中のグローライグ放電においてガンマ線スペクトル上で5つの異なるエネルギーに対応するエネルギーピークが観測された。同条件の軽水素雰囲気中で行った放電実験ではこのエネルギー領域のガンマ線が検出されなかったことから、重水素原子に関わる核反応によりガンマ線が放出したと考えられる。また、軽水素封入気圧1atm放電実験では2試行において300keV以上のエネルギーをもづガンマ線が観測された。試料表面の元素分析では、軽水素3Torr放電実験においで自然存在比と異なる同位体存在比のバリウムが、軽水素1atm放電実験においては自然存在比と異なる同位体存在比のカリウムが、重水素封入気圧1atm放電実験においては自然存在比と異なる同位体存在比のマグネシウムが検出された。 さらに補足実験として金表面修飾を片面に施したパラジウム板に軽水素を吸蔵後、真空中において、10〜24時間電流を流し、その間、試料の温度計測および四重極型質量分析計による質量分析を継続した。その結果、吸蔵軽水素ガスの放出に伴い異常温度上昇を起こすことが分かった。その条件として初期の温度上昇時の大きな上昇率と真空度の高さが必要である。軽水素放出の際にその流れの不均一性を作り出すことにより、パラジウム試料の厚さが異なってもガス放出に伴う発熱現象を容易に再現できた。ただし、この軽水素吸蔵実験においてガス分析によってトリチウムまたは重水素の生成は立証できなかった。
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