平成14年度の研究計画書に記載した研究課題に対応させて、これまでの研究成果の概要を以下に記す。 1.リング対円盤電極から成るEHDポンプを数mmから数μmに微細化し、流れの構造を明らかにする。 数μmサイズの流路中のEHDポンプでは円盤が流れを妨げ、流れ形成は、困難であることが分かった。そこで、EHDポンプ微細化の前に、厚さ10mm外直径100mmの円盤電極と、太さ5mm外直径20mmのリングから成るEHDポンプで流れを実験的に検討し、次の結果を得た。(1)銅製円盤電極を研磨すると流れ方向が印加電圧の極性で反転した。円盤表面が酸化状態では極性効果は現れず、流れは円盤からリングに向かうなど、円盤の表面状態がポンピング力に影響を及ぼす。(2)円盤電極中心に孔を開けて管内流れの抵抗低減を図り、直径5、10、20、30mmで作動液R123の平均速度を計測すると、孔の直径が大きくなるほど平均速度は遅くなる傾向を示し、流れ方向に極性効果が現れた。(3)円盤の孔が電極間電界分布の空間勾配を小さくし、高電界下のR123分子の解離電荷と非対称電界との相互作用力が電界勾配力よりも優勢になり、極性効果がでたと考えられる。 この後、EHDポンプの微細化を図り、外直径3mm太さ1mmの二つのリングから成るEHDポンプで、作動液の解離電荷と電界の相互作用力を主力とする流れを確認できた。さらに、電極サイズを数百μmに縮めてポンプを試作したがこれに適合する比重、粒径の可視化粒子がまだ見つからず、流速測定、流れの構造解明には至っていない。 2.数μmサイズEHDポンプの電極近傍流れを観測し、定常的速度分布と印加電圧との相関を明らかにする。 表記課題では、1.と同じ事情で結果を得ていない。しかし、厚さ10mm外直径100mmの円盤と太さ5mm外直径20mmのリングからなるポンプで、円盤アース、リングに直流10kV印加後134msecで円盤からリングに押し込まれる流れ形成過程を高速度カメラで撮影した。201msecでは流れと一緒にリングを潜り抜けてきた白い可視化粒子群を船の碇状に確認できた。1秒経過で、リングから吹き出るラッパ管状の定常EHDポンプ流れを観測し、中心軸上の平均速度は12.6cm/sであった。しかし、電極間流れは極めて複雑で、レーザ流速計による速度分布の測定は困難であったので、理論的扱いの容易な無極性液体のシリコン油を作動液に想定し、リング対円盤電極近傍の電界勾配力の分布を数値計算で求めた。円盤に近い側のリング表面近傍に電界勾配力が集中し流速が速くなると推定した。また数mmサイズの二つのリングによるポンプでR123の解離による流れの振動現象を観測した。さらに、複数の針電極を使うポンプでは、再現率は低いが45kV印加で12kPaの高電気圧を得て長距離大量動輸送EHDヒートパイプに応用可能と分かった。
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