本研究課題の最終年度である平成16年度は、これまでの約2年間の研究成果を基に、最終の研究項目である量子ドットへのスピン偏極電子の注入とのその制御に関し、電気的な注入実験のための素子構造の開発および光励起によるスピン偏極電子の特性評価について、以下の研究成果を得た。 1.二重積層InAs量子ドットに結合したGaAsナノホールの自己形成制御と量子ドットダイオードの作製: 昨年度は、InAs量子ドット単一層におけるGaAsナノホールの自己形成とその制御について検討したが、本年度は、二重結合型積層InAs量子ドットの上層ドットに結合したGaAsナノホールの自己形成について検討を加え、表面に蒸着した金属薄膜から上層量子ドットへの電子注入、そして上層量子ドットと下層量子ドット間におけるトンネル注入による新しい量子ドットダイオード構造の提案とその試作を行なった。本構造の開発における重要な点は、高均一の積層量子ドット構造の自己形成制御と積層量子ドットに結合したGaAsナノホールの自己形成制御であり、いずれもこの2年間の基礎データにより、成長条件と成長構造の最適化を効率よく計ることができた。その試作ダイオードの低温におけるコンダクタンス・スペクトル測定より、量子ドット間のトンネル電子注入に起因したコンダクタンスピークを検出し、磁性電極を用いた量子ドットへのスピン偏極電子の局所的な電気的注入制御法の可能性を示した。 2.ドット密度を制御したInAs量子ドット構造の自己形成とその偏向フォトルミネッセンス測定評価: ストランスキー・クラスタノフ成長モードの条件制御によるInAs量子ドット密度の制御に加え、良質な高密度のInAs量子ドットの自己形成法として、新たにGaSb層を導入する方法を提案し、1×10^<11>cm^<-2>クラスの高密度化を達成した。これらのサンプルを用いた円偏向励起フォトルミネッセンス測定を行い、ドット密度とスピン偏極率との関係を調べた結果、単層の量子ドットでは密度の高いものでスピン偏極率が低下する傾向が初めて観測された。最近、積層量子ドット間における半強磁性結合の報告もなされていることから、本実験結果は面内における量子ドット間での半強磁性的なスピン結合の可能性を示すのもである。ただし、本実験や結果の解析についてはまだ検討の余地も残されているが、量子ドットを用いたスピン制御に関して、今後の研究の進展が大いに期待される。
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