従来法のように基板に均一に窒化ガリウム(GaN)を形成するのではなく、最初から基板上の所望の場所にのみ局所的にGaNを形成させるための新しいプロセスの基礎として、低エネルギーガリウム(Ga)イオンビーム直接堆積を窒素ラジカル雰囲気で行なうプロセスを提案し、実証を試みた。窒素ラジカル発生源として、不純物を避けるため窒素ガスを用い、触媒作用を利用した熱フィラメントを用いる方法を検討した。また、形成された堆積膜の組成、化学的結合状態をX線光電子分光(XPS)で評価するが、リファレンスとしてエピタキシャル成長で作製されたGaN薄膜のXPS測定も行ない、XPSによる評価の妥当性についても検討を行なった。 試料近くにタングステンワイヤーをコイル状に巻いたフィラメントを導入し、通電・加熱することで試料室内に導入された窒素ガスを分解・励起し、窒素ラジカルの発生を試みた。この雰囲気で100eVのGaイオンを基板に照射して形成された薄膜のXPS測定を行なったところ、金属Gaの存在を示す18.5eVの結合エネルギーにはメインのピークは見られず、20.1eVに大きなピークが見られた。これはGaNエピ膜のXPSスペクトルに見られるGaのシグナルと同じ位置に見られ、このXPSシグナルの化学シフトによりGaとNの化学的な結合の有無を評価できること、また、窒素ガス雰囲気下で熱フィラメントを用いることで堆積した膜中にGaと化学的な結合を持ったNが取り込まれること、が示された。また、窒化シリコン(SiN)膜に60-100eVのGaイオンを照射することで、SiN表面にGaN結合ができることを明らかにした。 Gaイオンの照射量が十分でないため厚い膜を堆積させることはできなかったが、本研究により窒素ラジカル雰囲気下でのGaイオン直接堆積法という新しいプロセスにより、GaN薄膜の形成が可能であることを示すことができた。
|