半絶縁バッファ層を有するGaN MESFETの2次元過渡シミュレーションを行い、ドレインラグ(ドレイン電圧を変化させたとき生じるドレイン電流の緩やかな応答)やパワーコンプレッション(AC状態で得られるパワーがDC状態から予測されるものよりかなり低くなる現象)がどう再現されるか検討した。 半絶縁バッファ層は、深いドナー、深いアクセプタおよび浅いドナーからなる3準位モデルによりモデル化した。半絶縁バッファ層を有するFETにおいて電流コラプス(パワーコンプレッション)が実験的に見られるが、伝導帯下端より2.85eVおよび1.75eVの準位の影響が指摘されている。そこで、深いアクセプタレベルを伝導帯下端より2.85eV(価電子帯上端より0.6eV)とし、深いドナーレベルを伝導帯下端より1.75eVとした。また、より浅いドナーレベルの存在が指摘されているため、このエネルギーをパラメータとして変化させた。 まず、ゲート電圧を一定に保ち、ドレイン電圧を0Vから上げたときのドレイン電流のステップ応答を解析した。その結果、ドレイン電流は0.1ナノ秒程度で一旦一定となり、その後暫くして緩やかに減少するというドレインラグが見られた。また、ドレイン電圧を20Vから下げたときのステップ応答を解析した所、ドレイン電流はしばらく定常値より低い値に留まり、その後緩やかに上昇するというドレインラグが見られた。電流上昇は深いドナーからの電子放出と共に生じると解釈された。これらは、アンドープ半絶縁性基板を有するGaAs MESFETの場合と同様の機構によるものである。 次に、オフ状態からオン状態になるようゲート電圧とドレイン電圧を共にステップ関数的に変化させたときのターンオン特性を計算した。これより模擬的なパルスI-V特性を求めた。その結果、パルスI-V特性におけるドレイン電流値は定常(DC)状態における電流値に比べてかなり低くなった。これは、バッファ層中のトラップによりパワーコンプレッションが生じうることを明確に示している。
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