研究課題
基盤研究(C)
GaN系FETにおいては、ドレイン電圧やゲート電圧を急激に変化させても緩やかな応答を示す「ドレインラグ」や「ゲートラグ」が見られ、回路応用上問題となっている。また、直流動作から期待されるパワーより実際に得られる交流パワーが著しく低くなる「パワースランプ」あるいは「電流コラプス」という現象が見られ、実用化の大きな障害となっている。これらの現象は深刻な問題であり、多くの実験的検討がなされてきた。しかしながら、これらの現象に理論的検討を加え、それらの物理機構を明確にすると共に、対策を講じる研究は殆どなされてこなかった。そこで、本研究では半絶縁バッファ層を有するGaN MESFETをとりあげ、その2次元過渡数値シミュレーションを行うことにより上述の現象を再現することを試みた。ここでは、半絶縁バッファ層のモデルとして浅いドナー、深いドナーおよび深いアクセプタを含む3準位モデルを用いた。ドレイン電圧V_Dを急激に上げたときの過渡応答を解析した所、ドレイン電流は定常値を一旦上回りその後緩やかに減少して定常値に達した。また、V_Dを急激に下げたときの過渡応答を解析した所、ドレイン電流は暫く定常値より低い値に留まりその後緩やかに定常値に向かうというドレインラグが再現された。これらは、深いドナーによる電子捕獲、電子放出過程を考慮することによりうまく解釈された。また、このドレインラグは電流コラプスの大きな要因となることが明らかになった。電流コラプスのバッファ層内不純物濃度依存性を解析した所、深いアクセプタ濃度が高いほど電流コラプスが顕著となることが示された。これは、電子トラップとして働くイオン化した深いドナーの濃度が、深いアクセプタ濃度が高いほど高くなることに起因する。以上より、ドレインラグ、電流コラプス等の異常現象を最小限にするには、バッファ層内のアクセプタ濃度を低減すべきと結論された。
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