将来型ソフトウェア無線受信機、超高速計測器などに必要とされるGHz級A/D変換器(ADC)の実現を目指し、方式・機能レベル設計技術と回路設計技術との融合化を図り、共鳴トンネルダイオード(RTD)と化合物半導体素子(HBT^*、HFET^*)を組み合わせた新しいバンドパス型ΔΣ変調器を提案した。特に、InP系デバイス技術を想定した要素回路ブロックの高性能化設計を進めるとともに、それらを統合化した連続時間・多ビット方式ΔΣ変調器を設計した。回路シミュレーションにより極限性能を追求し、10GHz級ΔΣ変調器の構成法を明らかした。(^*HBT:ヘテロ接合バイポーラトランジスタ、^*HEMT:高電子移動度トランジスタ) 1.RTD/HEMTΔΣ変調器 シングルエンド型RTD量子化器を組み合わせた準差動型2ビット量子化器を提案し、SPICEシミュレーションにより10GHz動作の可能性を実証した。更に4ビット量子化器として利用できるRTDフラッシュADCを設計し、20GHzを越える入力帯域が実現可能であることを明らかにした。一方、HEMTオペアンプと、それを用いたバンドパス型2次Gm-Cフィルタ回路を設計した。 これらの基本回路ブロックを組み合わせて連続時間・多ビット方式バンドパス型ΔΣ変調器を構成した。インパルス不変法に基づく回路設計により、サンプリング周波数4GHz、入力帯域30MHzにおいて7ビット分解能を実現できる構成法を明らかにした。ロウパス型では、最適化手法の工夫により、同13GHz、同100MHzで9ビット変調器が設計できたので、同様の手法をバンドパス型に適用することで一層の高速化への見通しが得られた。 2.量子効果を組み込んだRTD素子モデル構築 ネットワーク・アナライザを用いた高周波Sパラメタ測定から、量子井戸への電荷蓄積によるRTD容量特性を明確に抽出した。更に、得られたRTD素子モデルに基づく機能回路シミュレーションにより、この容量が回路動作速度低下の原因となることをつきとめ、今後の回路設計における重要性を明らかにできた。
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