我々はSOI (Silicon-On-Insulator) MOSデバイスにおいて、シリコン活性層の膜厚を1-3nmほどに薄くして反転層と同程度にした構造の完全反転型MOSデバイスを考案し検討を進めてきている。この完全反転型SOI MOSFETはシリコン超薄膜の厚さが1-3nmであるためその中での電子は量子効果によって2次元状態になる。古典的モデリングでは反転層電子の密度はシリコン薄膜とゲート酸化膜の界面で最大となるが、量子力学的モデリングによればシリコン超薄膜のほぼ中心で最大となるために伝達コンダクタンスは古典的モデリングの予想に比べて小さくなると考えられる。シリコン超薄膜中の電子の分布は量子力学的波動性を考慮した自己無撞着的な電位分布により決まるものであり、それがドレイン電圧印加のもとで散乱など損失性影響のもとでの輸送現象を生じることになる。したがって、閾値電圧、サブスレッショルド特性、強反転線形および飽和領域の電流などの電気的特性を精度よく知るためには量子力学的モデリングが必要となる。平成14年度に1次元シュレーディンガー・ポアソン方程式の自己無撞着解の2次元化に関する定式化に基いたシミュレータに移動度のドレイン電界依存性を取り入れることにより高精度化した。 平成15年度に完全反転型SOI MOSFETのシリコン薄膜厚さが2.5nmから500nmの範囲にわたって、しきい値電圧を本シミュレータを用いて解析した。その結果、量子効果によるしきい値電圧のシフトが2次元電子の基底状態エネルギーの伝導帯底からのシフトと量子力学的電子分布から生じる実効的酸化膜容量変化に起因するシフトの和で説明できることを示した。
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