本研究の目的は、ナノメートルサイズの超微細構造を用いることにより、目的に応じた複屈折性や多色性をもつ種々の人工異方性媒質を製作する技術を確立し、それを用いた光集積回路技術や高密度光記録媒質を開発することにある。本年度は、人工異方性媒質として主に誘電体交互多層膜とポーラス構造誘電体薄膜を研究対象とし、以下の成果をあげた。 まず、ポーラス構造誘電体薄膜を用いた導波路型偏光子の設計と理論解析を行った。陽極酸化法で製作アルミナ膜や同種の方法で製作された石英膜は、薄膜内部に薄膜面に垂直な方向に無数のナノスケールの空孔をもち、これが原因で大きな複屈折を示す。このような薄膜を光導波路のコア上に装荷した導波路型偏光子の設計例を示し、素子長10mm程度で、消光比20dB以上の素子が製作可能であることを示した。 また、誘電体交互多層膜を用いたY分岐導波路型偏光ビームスプリッタについても理論的な研究を行い、Y分岐の一方に誘電体交互多層膜を装荷した素子と、分岐部の前に誘電体交互多層膜からなるプリズムを挿入した素子の2種類の構造の素子を提案し、各々理論的に良い特性が期待できることを示した。 一方、実験面では、高周波スパッタリング法を用いて、石英とアルミナからなる誘電体交互多層膜の試作を行い、その複屈折の大きさを光弾性法に基づいて測定した。その結果、ほぼ理論通りの複屈折性を持つ媒質を試作できていることが分かった。また、偏光多重光記録媒質の材料となる傾斜微粒子分散薄膜の試作のための装置の作製をすすめているところである。
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