ディジタル画像の拡大と縮小に、空聞領域では2次と3次多項式を用いた補間法が提案されているが、多項式の次数が低いため、再生した画像の画質が著しく劣化し、高精度の画像補間は困難である。補間精度を高めるために、多項式の次数を高くしなければならず、多項式の係数と再生画質の関係が明らかでないので、有効な解決法がまだ見当たらない。最近、遅延応答が非整数(サノプリング間隔の非整数倍)でかつ可変な可変非整数遅延フィルタは音声の高精度符号化とディジタル通信における受信信号の時間ずれの微調整に有効であることが注目されている。可変非整数遅延フィルタを用いれば、任意の時刻(1次元信号の場合)、または任意の空間点(画像信号の場合)における離散信号の値を可変非整数遅延フィルタによるフィルタリングの出力として求めることができるので、ディジタル信号の高精度補間が可能となる。従って、ディジタル信号の補間問題は時間領域と空間領域では、Sinc関数の近似問題となるが、周波数領域では、可変非整数遅延応答をもつ理想の可変非整数遅延素子の近似問題となる。平成14年度では、本研究の初期段階として、多次元の基礎となる1次元可変非整数遅延フィルタの設計問題を特異値分解(SVD : Singular Value Decomposition)を用いて定常1次元フイルタの設計聞題と1次元多項式の最小自乗近似問題に単純化させる新しい設計法と高速実現法を提案し、計算機シミュレーションでその有効性を確認した。この単純化では、特異値分解後のベクトルの対称性に着目し、定常フィルタの設計問題と多項式の最小自乗近似問題を偶対称、あるいは奇対称の場合に分けて設計と近似を行い、設計した定常1次元フィルタと1次元多項式をつないで間接的に可変非整数遅延フィルタを実現する。その利点としては、・既存の定常1次元フィルタの設計法を直接に応用できること ・1次元多項式の近似が非常に容易であること 等の優れた特徴が挙げられる。この特異値分解に基づく設計法によって設計された可変非整数遅延フィルタの特性は現時点では世界で最も優れている。
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