研究概要 |
無線を使用した移動体通信は、今日の情報化社会において益々その重要性は増している。しかしながら、現在の都市環境は益々悪化の一途で高層ビル、地下街およびビル棟内などの損失誘電体の壁で囲まれた建造物内での電波伝搬特性を知ることが重要となっている。特に遮蔽壁や分岐・折れ曲がりがある場合は伝搬特性が大きく減衰することがこれまでの研究で分かっているが、その具体的な伝搬経路についてはよく分かっていない現状である。本研究では、ビル屋内等の建造物に関する構造として壁がコンクリート等の損失誘電体でできた,現実の屋内平面図に近い基本的な壁構造を考慮し,このような環境下において電磁波が遮蔽壁などを透過して如何に伝搬していくか,さらにコンクリート等でできた壁内部の複雑な伝搬状態を実用的な観点から理論解析と実験的検討を行っている。理論的な数値計算は建造物内の電波伝搬問題に精密解法のFVTD法と近似解法のレイ・トレース法の適用によるものである。建造物内の任意の場所に線状波源をおいた、分折れ曲がりをもつ左右の壁のみの2次元構造空間及び壁内部の伝搬についてはFVTD法及びはレイ・トレース法を適用し、3次元の断面が方形空間の伝搬についてはレイ・トレース法を適用して解析している。 14年度は数値計算と並行して縮小模型のマイクロ波実験装置を用いて伝搬実験を実施し、基本的な建造物の空間や壁内部の電界強度分布を明らかにして数値計算結果とよく一致することを実証している。また、壁表面及び壁内部からの反射電界特性についてもFVTD法及び実験的に伝搬状態を知ることができ、両者を比較検討することができた。従って、建造物内の基本的な壁からなる分岐折れ曲がりをもつ空間の伝搬特性、壁内部の基礎的な透過特性及び反射特性を明らかにすることができた。 15年度は建造物内の基本的な壁からなる分岐折れ曲がりをもつ空間の伝搬特性においてレイ・トレース法で反射波のみでなく回折波を加えることにより実験値とよく一致することが分かった。また、2室間の透過波、反射波及び回折波を考慮した伝搬状態を明らかにすることができた。さらに、壁内部に鉄筋や金属物がある場合の理論解析及び実験的な検討を行っている。壁が粗面の場合の壁内部及び壁後面からの反射特性について、実験的に伝搬状態を知ることができた。これらの研究成果については、学術論文、研究会及び学会講演等に発表している。今後は、実際の建造物をモデルとした平面的な構造でなく、立体的な複数階の部屋間の電波伝搬について理論的及び実験的な両面からの解決を図る予定である。
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