研究代表者は、以前に多次元拡張実数空間の部分集合に対する上限・下限の新しい定義を提案し、その性質について考察していた。本研究では、多目的最適化問題の解を多次元拡張実数空間の実行可能集合の下限(あるいは上限)として捉え、この問題に対する数理的理論の構築を目指した。 まず、多次元実数空間への集合値写像に対する共役写像及び劣微分の概念を上限・下限を用いて導入し、集合値写像を基礎とする共役双対性の理論を構築した。共役写像については、Fenchel不等式の一般化などの重要な結果を得ている。また劣勾配と共役写像の関連性についても示し、集合値写像が劣微分可能となるための十分条件を与えた。集合値写像を用いて与えられた多目的最適化問題を主問題とし、その双対問題を共役写像を用いて定義した。主問題をパラメータを含む問題の族に埋め込むことにより定義される摂動写像を用いると主問題の目的空間における解集合はこの写像の原点における値であり、一方双対問題の解集合は摂動写像の第二共役写像の原点における値であることを示し、それらが一致するための十分条件を与えた。 また、パラメータを含む多目的最適化問題に対しその解集合を下限で定義することにより得られる、パラメータ空間から多次元拡大実数空間への集合値写像である摂動写像が連続となるための十分条件を与えた。さらにこの摂動写像の量的な変動を集合値写像の微分概念を用いて定量的に求める方法を与えた。この方法は、与えられた多目的最適化問題を定める制約集合値写像と目的関数の微分を用いるものである。 以上の成果により、新しい多目的最適化理論の構築が進んだ。
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