研究概要 |
本研究は,非線形最適化の代表的手法である,レーベンバーグ・マルカート法(LM法)とLMM法(モリソン)の高速化と安定化を図るために,その拘束条件を,[マルカート数×単位行列](C1)から[対角行列](C2)および[正定値行列](C3)へ拡張する手法を提案し,その有効性を明らかにした。これと同時に,物理的な最適化問題である表面張力測定の方法と実際の装置に対する本方法の応用を示した。 後者の表面張力測定への応用では,理論的な界面の曲線を液滴の観測画像へ最小2乗誤差で当てはめる際に,ヤコビ行列の列ノルムによる[対角行列]の拘束条件を用いて,従来法より3〜10倍の高速化を達成した。この方法と装置に関して論文発表すると共に,特許出願を行った。同時に,福岡県産業・科学技術振興財団の援助により,本装置を製品(試作)化した。更に,対象液滴を従来の懸滴から静滴へ拡張し,そこでのLMM法による有効性も確認した。現在では,この製品の評価・改良,並びにメガピクセルカメラによる高精度化を行っている。 多数の現存の数値計算ソフトウェアを調査した結果,対角行列の拘束条件を用いたLM法は一般に見られず,従来のソフト利用者は,自身でLM法の変数の理論的要件(等価ノルム性)を担保する必要があることが分かった。 本研究の拘束条件(C2)は,この要件をソフトウェア側で担保して,収束の高速化と安定化を達成できる。更に,拘束条件(C3)では,コスト関数の形状へ沿った拘束条件とするために,ヤコビ行列の2乗の平方根行列を提案し,これが一種の擬似ニュートン法となることを示した。 本方法の有効性を見るために,2次元の拡張Rosenbrock関数や多次元の曲線当てはめ問題など,従来の数種類の最適化問題に対する系統的な多数の実験を行った結果,C3の方法はC1やC2に比べ,コスト関数の形状に沿った滑らかな軌跡を描いて極小値へ到達できるので,収束までの平均的な反復回数も小さいことが明らかになった。また,同じ理由により,多数の局所最小値が存在する場合,検索領域を初期値により制御する目的にも,C3の方法は適することが分かった。 以上の研究成果は,口頭発表を経て,電子情報通信学会英文論文誌A分冊へ投稿した(2004年1月5日受付)。
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