研究概要 |
本研究者が提案した繰返し制御は,周期的な目標信号への追従に対して極めて有効であることはよく知られているが,この制御に用いるコントローラは入力の基本周期に等しいむだ時間を持つため,これを用いた繰返し制御系の安定性が常に問題となっていた.そこで,この問題を詳細に検討した結果,新たな繰返しコントローラの構築に成功し,繰返し制御系の安定問題を完全に解決することができた. 従来の繰返しコントローラを含む系の安定領域は複素平面上で1を中心とする半径1の円内に限定されるため,この繰返し制御系を安定に保つためには,制御対象のベクトル軌跡を常にこの半径1の安定円内に収めなければならなかった.これに対し,新たに前向き伝達関数を従来e^<-jωL>であったのに対してe^<-jωL>/Kとし,これにゲインKでポジティブなフィードバックをかけるという新たな枠粗みを提案した.これにより,このコントローラの周波数伝達関数は1/K・e^<-jωL>/(1-e^<-jωL>)となり,基本周期およびその高調波を含む繰返し入力及び外乱に対してゲインを無限大にできることはこれまでと同様である.しかし,同時にこのコントローラを含む系の安定領域は複素平面上で(K,0)を中心とした半径Kの円内になるため,ゲインKにより安定領域を自由に変化させることができ,極端な場合,Kを0に近づけると,複素平面上で右半面全体を安定領域にできることが明らかになった.つぎに,前向きゲインを1/Kに変え,これにKe^<-jωL>でポジティブなフィードバックをかけることにより,周波数伝達関数1/K・1/(1-e^<-jωL>)をもつコントローラを構成すると,安定領域は複素平面上の全域とできることも明らかにした.そして,1次遅れ系の制御対象に対してシミュレーションにより本手法の有効性を明らかにした.さらに,2次遅れ系の制御対象に対しては,上記新しい枠組みの繰返しコントローラにフィルタを導入して安定領域を変化させることにより,安定性,追従特性ともに優れたシステムが構築できることをシミュレーションによって実証した.
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