流体混合物の各成分を分離する蒸留塔や蒸気を発生するボイラ、また溶液から結晶粒子を析出成長させる結晶缶などの化学プラントは、一般に、多入出力多変数システム、むだ時間特性、非線形特性等を有する動特性が複雑な制御対象である。このような化学プラントにおける温度、液面、流量、圧力、濃度等の制御量はとりわけ相互に干渉し合う場合が多く、このような相互干渉を非干渉化する対策を必要とする。従来、これら相互干渉を積極的に打ち消す制御器として、逆ナイキスト配列による非干渉化前置補償器が有効な手段として用いられてきたが、顕著な相互干渉を有する制御対象に対しては、一つの前置補償器で非干渉化が達成できず、この前置補償器の各パラメータを試行錯誤的に調節してきた。 そこで本研究では、複数の非干渉化前置補償器を設置し、その直列接続、並列接続、直並列接続、ならびに並直列接続とその設計法を新たに提案した。対象とした流体温度液面制御パイロットプラントは、温水槽、冷水槽、混合槽から構成されており、制御量が流体温度と液面、操作量が冷水と温水で、それらに強い相互干渉を有する化学プラントの一つのモデルプラントである。 ステップ応答より求めた線形化伝達関数行列に対して、擬似対角化法を用いて前置補償器を設計し、その対角優勢を逆ナイキスト配列により判定する。しかしながら、顕著な相互干渉を有する制御対象に対しては、一つの前置補償器で非干渉化が達成できない場合が多く、本研究で提案する新たな前置補償器の多段階接続を行った。直列接続における前置補償器の設計法としては、非干渉化が達成できなかった前置補償器を含む伝達関数行列を新たな制御対象として、このときの相互干渉が強いハンチイグ周波数を用いて次の前置補償器を設計する方法で順次、接続する前置補償器を設計した。一方、並列接続においては、生じた顕著な複数のハンチング周波数を用いて各前置補償器を設計し、その並列接続で非干渉化を行った。このように設計された前置補償器を用いて、流体温度液面干渉パイロットプラントに対する非干渉化制御実験を行い、提案した直並列多段階接続前置補償器の有効性を確認した。
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