研究概要 |
黄鉄鉱が還元環境から酸化環境に曝されると,酸化が進行し水との接触により酸性の硫酸を生ずる。一方,方解石は溶解すると弱アルカリ性を呈することから,それらを混合することにより溶出水pHを制御できると予想される。そのため,黄鉄鉱を含有する粉砕岩石と方解石を含有する粉砕岩石との混合粉砕岩石試料に対する溶出試験をバッチ法とカラム法の両方で実施した。その結果,黄鉄鉱含有量と方解石含有量との比率によって溶出水pHを制御できることが明らかになった。しかし,石膏の沈殿が生成する条件では,方解石の溶解反応が抑制されpH緩衝機能を発揮できなくなることがわかった。地下水の流動を模擬したカラム試験でも,黄鉄鉱の酸化・溶解にともなう酸性化が方解石の溶解によるpH緩衝機能によって抑制されることが明らかになった。とくに,試験初期のイオン濃度の高い溶出水が流出する間は,石膏が長期にわたり安定に存在しない条件とすることが重要であることがわかった。 黄鉄鉱の酸化速度に関しては,室内バッチ試験および現地観測により評価した。室内試験では,黄鉄鉱の酸化が表面における一次反応と内部からの拡散反応との2段階のメカニズムにより溶出が進行することから,それぞれ一次反応速度定数,内部拡散係数によって溶出現象が評価できることがわかった。また,黄鉄鉱の酸化に起因する酸性河川における流量と酸化生成物である硫酸イオン濃度変化から,年間あたりの黄鉄鉱酸化速度を評価した。その結果,硫酸流出量は,表層岩盤中の黄鎌鉱含有量,風化速度と関係し,年間単位流域面積km^2あたり24トンにまで達し,この量は年間風化速度0.25mmに相当することが明らかにされた。 以上の結果から,黄鉄鉱の酸化・溶解メカニズム及び溶解速度を明らかにするとともに,それに起因する酸性化現象を緩和するために天然の方解石を利用する方法を提示した。
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