研究概要 |
1.研究の背景・目的 日本においては生態系への明確な影響は見られていないものの,欧米並みの酸性雨が観測されているため,将来的に酸性雨の影響が顕在化する可能性が高く,早急な対策が求められている.そこで,本研究では酸性降下物に着目し,その湿性沈着による降雨への影響について検討した.主な解析対象は栃木県内とし,酸性物質の湿性沈着量及び降水中のイオン濃度の時間変化や季節変動,地理的分布について解析を行い,酸性降下物の分布特性解明を試みた.さらに,トラジェクトリー解析を行うことによって,酸性降下物の輸送経路とローカルな分布特性がどのように関連しているのかついて解析を行った. 2.硫酸および硝酸イオンに関する解析 1999〜2002年度のNO_3^-及びSO_4^<2->の各湿性沈着量の時間変化について見たところ,両イオンに共通して,夏季から秋季にかけて沈着量が多く,冬季から春季にかけては少ない傾向にあった.これは季節的な降水量の変動によるものと考えられる.また,観測地点別に見ると,県北から県南にかけて沈着量は多くなり,NO_3^-及びSO_4^<2->濃度との関連性が示された. ここで,SO_4^<2->沈着量に関しては,2000年8月に発生した三宅島の噴火による影響が考えられる.三宅島の北方約250kmに位置する栃木県内においても,2000年9月にSO_4^<2->沈着量が急激に増加しており,三宅島の噴火に起因する可能性が高いことが明らかとなった.現在,三宅島の火山活動によるSO_2放出量は長期的に見て低下傾向にあるが,未だ日量3千〜1万トンもの放出量が続いており,その影響についてさらなる検討の必要性が示された. 3.トラジェクトリー解析 本研究では,METEXと呼ばれるモデルを用いて,NCAR/NCEP再解析データの風向・風速等を入力とし,栃木県宇都宮市上空1500mを起点として三次元バックワードトラジェクトリーを算出した.その結果,冬季については,中国上空よりSO_4^<2->等が輸送されるために日本海側で降水中イオン濃度が高くなることや,さらに北関東に対しても中国からの輸送が影響を及ぼしている可能性を確認することができた.
|