研究概要 |
本研究は,「超低床式車両を用いた路面電車(以下,低床式LRTと呼ぶ)」を対象として,主観的価値に基づく交通事業評価手法を確立することを目的とする.低床式LRTは高齢者や障害者にとってバリアをなくし利用を促進するといった利用価値のみならず,若者にとって自らの老後の利用を見込んだオプション価値や他者の福祉改善による価値なども含まれており,これらを如何に計測するかが重要となる. 14年度は,まず「CVMによる環境質の経済評価:非市場財の価値計測」をレビューし基礎理論と問題点を明らかにした後に,1999年に研究グループで実施した広島市低床式LRTの導入に対するWTP調査データを用いて,主観的価値データに含まれる問題点とその対応方法について検討した.その結果,CVMの回答者が表明する支払意思額に含まれる曖昧性には4つのタイプがあることが明らかになった.これらの曖昧性への対処法として,ファジィ理論に基づく調査分析方法(ファジィCVM)を提案し,その有効性について道路整備事業のアンケートデータを用いて検討した. 15年度は,初年度に構築した主観的価値の曖昧性を取り扱うことのできるファジィ理論に基づく調査分析方法を改良して,CVMにより計測した主観的価値の区間推定の方法を提案した.その成果は,日本都市計画学会,土木学会およびアジア交通学会において発表した.また,路面電車の低床化に対する主観的価値のバイアス修正のために抵抗回答の修正方法と負価値回答の修正方法を提案してその有効性を実証した. 最後に,熊本市および広島市で導入された低床式路面電車に対する利用者の満足度調査データを用いて,低床式LRTに対する利用者の重要視するサービス要因とその水準を明らかにした.また熊本市と広島市のデータを比較して,低床式LRTに対する主観的価値の地域間安定性について検討するとともに,広島市の2時点のデータを比較して,同じく時点間安定性について検討した.
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