近年、地球温暖化による海面上昇の問題は、ますます深刻化する大きな国際環境問題として認識されている。その影響は社会経済を始めとして多岐にわたり、その大きさは壊滅的な被害を受ける国があると予想されるほど甚大である。このような問題に対し、これまでの調査・研究の大部分は環境変化の予測に焦点が当てられてきたが、長期的・経済学的視点から海面上昇の影響を見ると多くの問題と危険性を含んでいるため、その経済評価の必要性は高いと考えられる。本論文では、海面上昇による大きな被害が予想されるなどの理由から、伊勢湾地域(特に愛知県)を分析対象とした。そして、GIS(地理情報システム)を利用した人口移動モデルおよび一般均衡分析の枠組みで社会経済モデルを構築し、海面上昇による人口移動と経済損失を予測した。その結果、伊勢湾地域における海面上昇1mによる人口移動と経済損失の大きさを視覚的な地図で把握することができた。 また、海面上昇対策便益の計測を通じて、CVMにおいて支払方法の違いによるWTPの変動を分析し、支払方法に対する公平感がWTPの結果に影響を与えることを明らかにした。その際、支払手段として「一律の金額」「任意の寄付金」の2種類、また支払単位として「一生涯」「毎年」「毎月」の3種類を設定し、沿岸域の海面上昇防御策に対するWTPをたずねるためのアンケート調査を実施した。そして、支払方法の違いによる公平感を変数として組み込んだ評価モデルを構築し、本モデルを用いて分析した。その結果、いずれの支払単位においても、支払手段を「一律の金額」としたときのWTPの方が「任意の寄付金」としたときのWTPより大きくなり、「任意の寄付金」という支払手段に不公平感が存在することが明らかになった。
|