本研究は、デザインガイドラインとしてこれまでに用いられてきた建築的な規定項目とその規制範囲について調査し、それらの有効性について、景観シミュレーションにより実験的に吟味することを目的とする。そこで、シミュレーション実験は、1)大型スクリーンに投影した遠景・中景を含む静止映像によるスナップショット評価実験、2)HMDに投影した視点移動にともなう近景の流動映像によるトラバース評価実験の異なる提示方法による評価実験を行うこととした。さらに、樹木、ストリートファニチャー、人や車の流れなど、建築物以外の付加的要素のあり方によってもデザインガイドライン項目の有効性が左右されると考え、建築模型空間にCGにより生成した付加要素の画像を合成した実験を行った。その結果、下記の事柄が明らかになった。 ・街路に沿う建物どうしの物理的特性の変化が大きくなるにつれて、「統一感」や「単調さ」の評価が共に低下する。 ・建物の色を統一することによって「統一感」と「単調さ」の評価が増し、「雰囲気」や「開放感」の評価が低下した。 ・壁面後退距離を統一する事によって開放感が低下した。また、予測に反して、単調さの評価が低下した。これは、壁面線が揃う事により、他の特性の変化が知覚され易くなった為と考えられる。 ・物理的特性の変化が大きく不規則な街路においては、並木が統一感の低下を緩和する効果がある。 ・雰囲気の評価は建物の特性によっては変化しなかったが、人・車・並木が加わる事によって上昇した。 ・静止画による評価は視点による変動が大きく、街路全体にわたる評価が得られない場合がほとんどであった。これは静止画による景観評価の限界を示している。しかし、壁面凹凸の有無による評価など、移動中には捉えられないが、静止した視点では安定している評価もあることから、静止画と動画の双方の特徴を生かしたシミュレーションを行う必要がある。
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