本研究では、生活的にも経済的にも自立した個と個のカップルが、就業上の理由で日常の住まいを別にする二カ所居住を『両住まい』と定義し、『両住まい』家族の居住実態と居住ニーズについて調査・検討を行った結果、下記の点を明らかにした。 (1)『両住まい』の典型的事例は、大学に勤務する女性研究者にみられる。大学における女性教員の割合はまだまだ低く、望む地域に望む職を得にくいことが『両住まい』の大きな要因であることが明らかになった。全国の国立大学の女性研究者470名の調査で46%が『両住まい』経験者であったことは、予想をはるかに超えるものであった。 (2)『両住まい』の経緯には様々なパターンがあるが、女性の側の就業上の理由によって発生することが多い。結婚・出産後、就職によって子どもを抱えての『両住まい』が少なくないことが明らかになった。 (3)『両住まい』家族には、住宅立地の利便性や子育ての住環境、宅急便などの留守時の預かりや留守宅の管理、複数住宅居住世帯への家賃補助など幅広い内容の居住ニーズがあることが明らかになった。 (4)建築関係の若年専門職女性を対象に行った調査結果からは、夜遅くまで勤務する環境にありながらも、家事と仕事の両立を志向する者が多く、仕事の発展・継続のためなら『両住まい』への共感も一定あることが明らかになった。また、共働き世帯や妻の就業上の都合による別居体験がある場合は、男性側も『両住まい』の共感度が高いことが明らかになった。 『両住まい』は、現段階では特殊な住まい方であると言えるが、共働きや単身赴任世帯が増える中、今後の複雑で多様な家族の一つの居住スタイルを示していると考えられる。現時点では、『両住まい』を支える社会的な支援策は殆どない。ライフスタイルの多様化に対応した、ソフトな面にも目を向けたきめ細やかな居住環境整備が求められる。
|