人間が空間を体験し、把握する際の視覚探索や歩行行動を実験的に調査するため、本年度は以下の研究を行った。 1.茶室露地における飛石歩行時の注視行動の調査 茶室に付随する庭である露地は、来客が歩行時に足を置く位置を飛石によって細かく規定している空間である。来客は飛石に従いながら歩くことによって、歩行行動だけでなく視覚探索をも影響を受けることが予想された。そこでアイカメラを装着した被験者が、飛石の歩き方を何も知らない状態で露地を歩行する実験と、飛石の歩き方を教示した後で露地を歩行する実験を行った。その結果、飛石に従って歩行することにより、あらゆる方向へと移動していた注視が3個先の飛石付近に集中するようになること、植栽への注視が減少し、燈籠、蹲居といった添景物などへの注視が増加すること、役石ごとに分節化された注視行動によって露地が捉えられるようになることなどを明らかにした。 2.探索歩行時における中心視および周辺視の機能の調査 探索歩行時における中心視および周辺視の役割を解明するため、制限視野マスクによって中心視または周辺視を制限した状況で迷路内を探索歩行する実験を行った。ただし中心視を制限可能なマスクが未開発であったため、まずそれが可能なマスクの開発を行い、予備実験によってその効果を実証した。 そして中心視または周辺視を制限した被験者が実験用迷路を探索する実験の結果を、アイカメラを装着し通常視野が確保された被験者の実験結果と比較した。その結果、中心視が機能することによって、壁面相互のつながりや遠方の壁面の前後関係が把握可能になること、周辺視が機能することによって、以前歩行した空間を正確に認識可能になることを明らかにした。また通常の視野状態では、中心視と周辺視の協応によって、身体近傍の壁面と身体との位置関係や、空間の複雑な形状を効率よく把握可能になることなども明らかにした。
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