(1)事例調査:視覚・聴覚能力が低下する高齢者施設での情報補償環境の実態を調査した。具体的には、オランダの高齢者施設での建物の構成や内装・サインの実態を調査し、さらに管理者・介護者などにヒアリングを行った。高齢者施設では、認知能力の低下に停い、視覚・聴覚などの知覚情報が直接的に行動に作用しやすく、情報補償環境が健常者に比較しより重要であることが分かった。その観点からみると、情報の入手できる範囲がきわめて重要で、情報提示のあり方とその場所との整合がとれていることが迷いやその他の問題行動抑制に不可欠であることが分かった。 (2)探索行動実験:実際の環境内で障害者の探索行動実験を繰り返し行うことには、現場への移動や介助者への協力依頼などの種々の問題が生じたため、情報レベルの異なる探索行動を擬似的に再現するための装置の開発、およびその有効性検証を行った。具体的には、ビデオ映像によって空間を能動的に擬似体験できるシステム、WASS (Wayfinding Active Simulation System)を開発し、実環境とWASS環境の探索行動パフォーマンスを比較した。 (3)WASS環境の有効性:探索行動実験の結果は継続的に分析中であるが、一時集計結果から有効性検討を行った。WASS環境は実環境に比較し、オリエンテーションや認知マップの課題に対して劣っているが、探索や視認などに関しては、若干にレベルダウンは見られるものの、その傾向は同様に現れるため、今後、視覚障害者の情報レベルに対応して、疑似環境を構築することで情報補償環境の診断・評価が可能であることが明らかになった。
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