本年度は、クアラルンプール(KL)とバンコク(BKK)という二つのアセアン大都市圏の周縁部に着目しつつ、急速な産業化のもとでその都市構造と居住形態がどのようにかたちづくられ、異なる世代・社会階層にどのような居住機会を与え得たのかをアンケート調査をもとに実証的に比較分析した。分析結果は以下のとおり。 ●KLとBKKの大都市圏周縁部は工業化と住宅開発のフロンティアとなっている。内外資の工場が多く立地し、工場労働者住宅、都心に通勤する新中間層の住宅などの住宅開発が顕著である。国の経済成長と社会経済のフォーマル化に従って、住宅も急速にフォーマル化している。一方で、割合は縮小しつつあるが、KLとBKKとも、低学歴の40代以上を中心にインフォーマル居住を継続している層がある。KLでは外国人労働がインフォーマルな住宅に居住し始めている。 ●タイでは政府の住宅市場への介入は小さく自由な住宅市場が形成され、1990年代末からアジア経済危機までは民間部門が活発に住宅を供給してきた。一方、マレーシアではブミプトラ政策のもと、1983年以降政府は民間部門に住宅供給の30%以上を低価格住宅とするように義務付けている。こうした住宅政策の違いは、居住形態やその形成プロセスに大きな影響を与えている。BKKでは、低学歴層を中心に賃貸住宅居住が多く見られるが、KLでは低学歴層でも多くが持ち家化している。 ●外資導入による圧縮された産業化は、賃金上昇を上回る急激な土地価格の上昇をもたらし、40・50代の世代は相対的に安い価格で接地型住宅(戸建て・タウンハウス・テラスハウス)にアクセスすることができたが、その後の世代でかつ低〜低中所得階層においては賃貸住宅(BKK)や持ち家でも低価格フラット(KL)の居住が多くなっている。 ●マレーシア、タイともに住宅金融は発達しており、KLでは低所得以上、BKKでは中低所得以上の階層の住宅取得を支えている。
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