1980年代後半以降、クアラルンプル大都市圏とバンコク大都市圏の二つのアセアン大都市圏はグローバル経済と国内経済を結ぶ結節点となり、その産業経済構造と社会構造を大きく変容させていく。大都市圏郊外部では製造業集積、工場労働者や新中間層の拡大と核家族化、モータリーゼーション、郊外住宅開発や商業開発は一体的なダミナミズムのなかで生み出され、郊外都市社会とそのライフスタイルを形成してきた。 急速な居住形態の変化は住宅需給構造の変化に起因している。就業構造のフォーマル化が居住形態のフォーマル化を促していった。就業構造のフォーマル化と教育水準の向上は若年層から起こり、しかも、都市圏人口の拡大はこうした若い世代を中核としている。これが住宅需要構造を一変させた最大の理由である。居住形態の急速な変化は量的に圧倒する若い世代の住宅需要とそれに対する住宅供給によるものである。一方、住宅需要の質的な側面に目をむけると、両都市圏とも学歴による職業・職階の階層化がなされており、これが世帯所得と住宅格差につながっている。クアラルンプル大都市圏では中学歴化が進んだ段階でグローバル経済化に接合したのに対して、バンコクでは初等教育水準の労働力が圧倒的に多かった。バンコクの低学歴層の賃金上昇は抑制され、低学歴層の住宅取得をより難しくした。 所得格差を住宅格差に直裁的に結びつくことを抑制する、あるいは低所得者層の居住水準を向上させるメカニズムには、(1)公共住宅政策(補助政策)・住宅市場介入策(リンケージ政策)、(2)賃貸住宅市場、(3)住宅市場動向における購入のタイミング、(4)住宅ローンによる過去からの補助金、(5)コミュニティ改善という5つのシステムが確認される。クアラルンプルとバンコクではそれぞれメカニズム(1)(3)(4)、メカニズム(2)(4)(5)が働き、住宅水準の底上げに寄与している。
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