本研究は、日本の地方都市に焦点を当て、地方都市が近代化していく過程において建てられた近代建築について、文献調査からの復元と、それらに対する評価を試みる研究であり、そのケース・スタディとして、愛知県下の豊橋・岡崎・刈谷・西尾・一宮・津島の6都市の近代建築を対象とした。 まず、これら6都市における「近代建築リスト」を作成し、合計291件を収録した。次にこれらの中から、豊橋と西尾については二段階を経て、他の都市では一度の選択によって、合計68件を抽出し、建築物の復元をおこないながら、様式・意匠、構造・材料、平面、都市景観、社会との関わりについて、特徴的な事項を中心に評価をおこなった。さらに、これらから11件(豊橋市公会堂、豊橋ハリストス正教会聖堂、第15師団関係施設、豊橋市上水道関係施設、岡崎銀行本店、亀城尋常高等小学校本館、依佐美送信所関連施設、井桁屋、吉見家本邸、一宮市役所、名古屋銀行津島支店)を「最重要物件」として位置付け、さらに詳細な復元と様式・意匠、構造・材料、平面、都市景観、社会との関わりの全ての点について、評価を試みた。 その結果、これらの近代建築は、従来の日本近代建築史の枠組みでは説明できない新しい価値を有することが判明した。例えば、旧亀城尋常高等小学校本館では、柱・大梁・外壁のみをRC造としながら、小梁・床・小屋組を木造とした混構造であり、RC造技術の地方都市への普及を示す好例である。 本研究では、評価が遅れていた地方都市の近代建築について、従来の研究では見落とされていた新しい評価が可能であることを示した。そして、地方都市の近代建築について、公共施設整備と民間の金融機関や商業・事務所建築の建設が都市改造と連動して進められたこと、建築物のRC造化が不燃化を確保していったこと、建築家の果たした役割が大きいこと、全く評価されずに取り壊された建物が多いこと、という4点を最終的に得ることが出来た。
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