本年度は、独湛禅師と鉄牛禅師の両禅師に係わる場所についての建築史的研究が課題である。"念仏独湛"の異名をもつ黄檗禅の僧侶・独湛禅師についての信仰に関する「建築空間」は幾つかの関連の古建物や伽藍を実施調査を敢行し、語録などの著作も見た。一方、鉄牛禅師についても、江戸時代中期において次々と全国に建てられた巨大な黄檗派禅の修業道場および跡に現地調査を敢行したし、近年歴史家が研究を発表し始めた同禅師自身についての研究も文献を収集して、これらを検討した。 独湛禅師に関しての現地調査は、塔頭寺院・獅子林院はじめ宝林寺(静岡県引佐町所在)など全国に同獅子林派寺院法系の寺院が19ケ寺院、当麻寺(奈良県当麻町所在)や法然院(京都市所在)の主な寺院には訪れた。さらに独湛禅師の弟子の開いた寺院として、東林寺(熊本県人吉市所在)も調査した。鉄牛禅師に関しての現地調査は、塔頭寺院・長松院はじめ興禅寺(鳥取市所在)、浄住寺(京都市所在)、永明寺(滋賀県山東町所在)、瑞林寺(富士市所在)、弘福寺(墨田区所在)および大年寺(仙台市所在)など全国に長松派の法系の寺院が32ケ寺院の主な寺院、その他の瑞聖寺(港区所在)も調査した。鉄牛禅師の生涯を送った場所にも脚を運んだ。鉄牛禅師に関しての語録類も集めて、目を通し始めた。 そして、既に研究発表した成果としては、中国僧・独湛禅師については、特に初山寳林寺においての特異な伽藍構成について他派(特に曹洞宗)の禅宗寺院のそれとの関連が考えられたし、黄色檗派寺院の歴史のみでは理解が及ばないことを提示した。 一方、日本僧・鉄牛禅師については、特に葉室山浄住寺蔵の古絵図に描かれた同寺の所謂口の字型伽藍構成についての理解において、「宗教上の機能」を考慮した建築史的一つの新しい理解を提示できた。 なお、本年度の研究発表については、本研究の意義や昨年度までの研究課題などについての成果も含まれている。
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