平成15年度は、研究期間の中間年度に当たる。当初の研究実施計画では、昨年度に引き続き関連文献資料の収集・点検と国内外の現地調査を予定していた。 このうち文献資料の収集については、海外書籍、関連論文等を中心に主要なものを収集し、内容の検討を進めている。但し、内外の調査報告書については、かなり遺漏があることが判明したので、これについては次年度での補充を期したい。 他方、現地調査ではまず、石造の構築技術の源流を確認するための国外調査として、昨年度実施したポルトガルとオランダを中心としたヨーロッパ地域に引き続き、本年度は近隣アジア諸国を予定していた。しかし、平成15年度前半は中国に発したSARS騒動とイラク戦争の勃発により、大幅な予定変更を余儀なくされた。結局、日程の都合上、9月に韓国南部の一部地域を調査しえたに過ぎない。但し、11月と平成16年2月には、他の機会を捉えてそれぞれイタリアの北部と南部における石造構築物について補足調査を実施することができた。平成16年度には是非、当初予定分を補完させたいと願っている。また、国内における石造の構築技術が伝播したことを確認するための遺構調査としては、対馬を中心に長崎県内について数度、県外では3月に大阪城及び京都の禅宗寺院らおける実例調査を実施した。 文献調査及び現地調査ともまだ継続中であるため、現時点では調査結果の精細な分析と考察は完結していない。しかし石造の構築技術において最重要な架構法の一つであるアーチ構造の起源については、いくつかの問題点が明らかになってきたので、その成果の一部を来る4月24日に開催される建築史学会大会において研究発表する予定としている。そこでの議論を通して、今後の研究進展の方向性を見定めることを期したい。
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