平成16年度は、研究期間の最終年度に当たる。年度当初の4月24日に開催された建築史学会大会において、「組積造におけるアーチ構造の期限に関する諸問題」と題する研究発表を行った。これは本研究の主題である石造建造物の構築技術において、最も特徴的な工法でかつ伝来・伝搬過程を推考するに重要な指標ともなるアーチ構造の発生と源流について、いくつかの仮説的な見解を提示したものであったが、その質疑応答によって私見の蓋然性を確認するとともに、西洋・中近東・中国に関する代表的な建築史研究者から有益な教示を得る貴重な機会となった。 当初の研究実施計画では、前年度に実施できなかった中国における現地調査を予定していたが、対象地域への便宜が得られなかったことや予定していた秋期に健康を害したことなどにより、残念ながら見送らざるをえない結果となった。それに代えて、イタリア・ヴェネツィア地方を対象として、ヨーロッパ地域における補足調査を平成17年2月に行った。また、国内では、別の機会を利用した九州地区のほか、近代の事例として横浜を中心とした関東地区について8月に現地調査を実施した。 他方、文献資料的な調査は、前年度に引き続き海外書籍、関連論文等を中心に主要なものを収集し、内容の検討を進めてきた。こうして資料調査的にも、中国の現地調査を除けばほぼ当初の計画通りに遂行し、系統的な史的考察を行った。
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