研究課題/領域番号 |
14550645
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
小沢 朝江 東海大学, 工学部, 助教授 (70212587)
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研究分担者 |
池田 忍 千葉大学, 文学部, 助教授 (90272286)
水沼 淑子 関東学院大学, 人間環境学部, 教授 (50147873)
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キーワード | 女性 / ジェンダー / 内部空間の演出 / 障壁画 / 天皇 / 皇后 / 内裏 / 御里御殿 |
研究概要 |
本年度は、旧東宮御所(現:迎賓館)および明治宮殿の天皇(東宮)・皇后(東宮妃)の私的空間の平面・意匠、および近世内裏における出産のための建物である女御御里御殿の内部空間を中心に検討し、総括を行った。 1.女御御里御殿は近世を通じて7度造営され、延宝度以降南東隅を上段、上段の西室を二の間、北室を寝所兼産所とする平面を踏襲したが、寛政度以前が上段・寝所を中心とする内向きの御殿であるのに対し、寛政度は上・下段から成る儀式空間に変化した。同様に障壁画の画題も、寛政度以前は上段等に「唐子」を描くのに対し、寛政度は上段が「錦花鳥」、二の間が「子の日の小松引き」と異なる。この「小松」は、江戸時代中期以降定着した「内着帯」に用いられる道具のひとつで、寛政度の空間構成は御里御殿が「内着帯」の儀式空間としたことを意味し、その変化を障壁画で視覚的に表現したと考えられる。 2.旧東宮御所(現:迎賓館)は、1階が私的空間、2階が公的・準公的空間から成り、従来その平面は欧州の宮殿建築を参考したと指摘されていた。しかし、平面の比較および文献史料により、日本の旧来の慣習を重視したこと、すなわち洋館でありながら明治宮殿や近世の内裏建築の部屋配置を踏襲したことが判明した。また、史料が少ない1階諸室について、竣工写真等から家具配置の復原および床・天井仕上げの比較を行った結果、寝室や居間は東宮が東宮妃側を訪れることを前提に計画されたと判断される。一方意匠は、東宮・東宮妃側で大きな差は見られず、2階が両御座所の意匠に明らかな格差を付ける点と相違し、また家具では東宮妃側のみ子ども用の椅子やフットレストなどくつろぐ家具を配置する。以上により、東宮御所の私的空間では、明治天皇とは異なる、家庭的な次代天皇像、理想の妻・母としての次代皇后像の表現が意図されたと考えられる。 3.明治宮殿の天皇常御殿・皇后常御殿の障壁画は、計画当初は江戸時代の内裏の画題を調査するなど、旧来の方法を採ることが模索されたが、最終的には抽象的な文様が選択され、その方法は以後の離宮・御用邸の内部意匠にも踏襲された。両常御殿の画題は、天皇側に「雲」を主体とする「天」、皇后側では「雨」「野」など「地」のイメージが選択されており、近代天皇制で重用された「天地乾坤」の表象が意図されたと考えられる。
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