本研究では、STM法およびSTS法を用いて準結晶の原子構造および電子状態を調べることを目的に以下の実験を行った。試料はチョコラルスキー法により作製したAl-Ni-Co系正10角形準結晶の単結晶を用い、超高真空(〜2.3×10^<-8>Pa)中でSTM観察およびトンネル分光測定を行った。STM観察では、i)原子配列の準周期秩序の完全性が高いこと、ii)2種類の準周期面が10_5らせん対称の関孫にあること、iii)10回軸方向の周期性が表面再構成により数種類存在すること、iv)フェイゾン欠陥の密度は極めて低いこと、が示された。特にiv)の結果は、フェイゾンをSTMで観察した世界初の例である。また、トンネル分光測定では、試料-探針間距離をかえて種々の条件でスペクトルを測定したところ、表面準位に対応する幾つかのピークが再現性よく観測された。これ以外に、上記iv)に関連して、準結晶中でのフェイゾン歪の緩和過程を高温高分解能電子顕微鏡その場観察法により調べた。試料は、Al-Co-Co-Si系正10角形準締晶とし、820℃で焼鈍することにより、一様なフェイゾン歪が入った構造を得た。850℃に昇温し、この温度でフェイゾン歪が緩和していく過程を観察した。まず、得られた像から一辺2nmのタイリング構造を抽出し、これを高次元射影法に基づいて解析してフェィゾン変位の位置依存性を表す関数を導出した。この関数の時間変化を解析することにより、緩和が、i)一様なフェイゾン歪が入った領域と歪をもたない領域の境界が移動することにより進行すること、ii)その際、フェイゾン歪の入った領域におけるフェイゾン変位は変化しないこと、iii)境界において常にタイリングがコヒーレントに接続すること、が明らかとなった。
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