本研究は、金属および炭素系物質の高エネルギー衝突場での原子組換えによる新たな物質の創製を目的とする。これまで、金、銀、銅薄膜に低温で電子線を照射することによってナノサイズの構造が自己組織化現象によって電子線の出射面側に生成されることを報告している。今回、ニッケルと鉄に400keVの電子線を照射することによって新たなタイプのナノサイズの自己組織化構造が現れることを見出した(Materials Transactions 43(2002)646)。特に鉄で現れたナノ構造は823Kまで安定であった。一方、黒鉛の高エネルギー粒子線照射下でのアモルファス化に関して我々は系統的に研究を行っているが、今回、照射下での黒鉛のアモルファス化は転位双極子の蓄積によって引き起こされるというモデルを提案した(Phil.Mag.Lett.82(2002)401)。また、C_60フラーレン粉末をステンレスカプセルに充填し、衝撃圧縮を行った試料を走査型電子顕微鏡および顕微ラマン分光法で評価した。流体計算によって、試料がたどる温度・圧力履歴は、回収カプセルの試料室内の場所によって大きく異なることが示されているが、走査型電子顕微鏡およびラマン分光法の観察によって局所的な生成物の違いがあることが明らかになった。特に、衝撃圧縮された回収試料の内部空間は、数10μmのサイズで黒鉛化度が高く、内部が空洞である新たなタイプの球状物質を見出した(Chem.Phys.Lett.362(2002)47)。この球状物質の生成機構として液相をとおしたメカニズムを考えている(Materials Transactions 45(2004)5)。
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