研究概要 |
1)バブルの動的挙動をセンサーとして,高エネルギー自己イオン照射によるカスケード損傷効果を明らかにする目的で,ヘリウムバブルを予め導入したCu,Au,Fe,Al試料に高エネルギーイオンを照射した。Cu,Auにおいて高エネルギーイオン照射下では,熱的移動が起こらないような比較的低温でも,カスケード効果によると思われるバブルの比較的狭い範囲のランダムな移動と,比較的長距離で直線的な間歇的移動が誘起されることを見出した。その間歇的移動の機構として,カスケード格子間原子を吸収する格子間原子型転位ループとバブルとの相互作用により,間歇的運動が誘起されるモデルを提案した。狭い範囲のランダムな移動については,サーマルスパイクの効果の可能性などを検討中である。 2)Fe,およびFe-9Cr合金中の転位ループの一次元運動とバブルの動的挙動に対するヘリウムの効果,Crの効果を,電子顕微鏡観察,STEM-EELS(Scanning Transmission Electron Microscopy-Electron Energy Loss Spectroscopy), TDS(Thermal Desorption Spectroscopy)法により調べた。ヘリウムの放出スペクトルは,試料内部の照射欠陥組織の変化と良く対応していることを見出した。5個の放出ピークが観測され,それぞれ,微小格子間原子・ヘリウム・原子空孔複合体の分解,転位ルーブの移動・合体,熱平衡原子空孔の吸収による転位ループの消滅,バブルの移動,α-γ相変態などによるヘリウムの放出と結論できた。α-γ相変態に伴なって,移動する相境界に沿ってバブルが容易に掃かれていく機構が明瞭に観察され,これが大きいヘリウム放出ピークになることが初めて見出された。Crは,転位ループやバブル周囲に偏析し,ループの一次元運動やバブルのブラウン運動を抑制する効果があることも見出した。このことが,ヘリウムの放出ピークを高温側にシフトさせる原因であることも判明した。
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