研究概要 |
シリコン結晶はMEMSデバイスの素材として注目されているが,同時に破壊物理研究のモデル結晶としても重要である.当研究ではその破壊物理の進展を目途し,昨年度に引き続きシリコン結晶中の亀裂先端塑性域の微視的構造について,超高圧電顕法(九州大学超高圧電子顕微鏡室のJEM1000),原子間力顕微鏡法等を駆使して解析した.併せて赤外光弾性法による亀裂先端応力場の直接観察とそのシミュレーションを通して,その巨視的破壊靭性との結び付きを明確化した. まず,超高圧電顕観察では,圧痕法により亀裂を試片に導入し,その後,試片温度を上昇(550-750度C)させ亀裂先端より転位を導入した.その後化学研摩後,集束イオンビームで亀裂先端部を薄膜化した.特に今年Plan-view観察に力点を置いた.また,赤外線光弾性法で亀裂先端応力状態をその場親察した.本研究で得られた結果を箇条書きにすれば下記のとおりである. (1)超高圧電顕法により,Si結晶中の亀裂先端塑性域の転位構造を解析した.Side-view観察と併せPlan-view観察を行い,三次元転位構造を明確化するとともに,転位増殖源について新たな知見が得られた. (2)電顕試料と同一方位を有する試片について原子間力顕微鏡法(AFM)による亀裂先端近傍の微小塑性変位を測定した.これによりnmオーダーのSlip Bandsを観察することができた. (3)赤外線光弾性法による転位生成増殖前後の局部応力状態変化を観測した.またその像シミュレーションを詳しく行った.これにより亀裂先端応力遮蔽場の存在を確認し,この応力場がシリコン結晶の,脆性-延性遷移における破壊靭性値の上昇に大きく寄与していることを実証した.
|