本研究では、逆ミセル微小反応場を用いてZnS : Mn^<2+>ナノクリスタル蛍光体をラウリルリン酸(PhosH)、SiO_2および両者によって表面修飾したサンプルを比較し、Mn^<2+>による発光強度が増大する機構を追究した。PhosH修飾ZnS : Mn^<2+>は、励起スペクトルのピーク波長や吸収端波長がバルクの値よりブルーシフトした。ZnS : Mn^<2+>ナノクリスタルにPhosHを修飾すると、ZnSのバンド間を励起したときのMn^<2+>のd-d遷移による発光強度が約4倍に増大した。一方、Mn^<2+>のd-d間を直接励起した場合の同発光は、PhosH添加の有無に関わらず変化しなかった。したがって、PhosH修飾による発光増大は、母体を励起するときに特有なZnS→Mn^<2+>間のエネルギー移動が効率化したことに起因する。EDXによる組成分析とIR吸収スペクトルからZnS:Mn^<2+>にPhosHが優先的に結合していることや、^<31>P-NMRよりP近傍の電子密度が低下することから、ZnS:Mn^<2+>ナノクリスタルは、PhosHと化学的に相互作用していることが確認された。SiO_2修飾ZnS:Mn^<2+>では、TEOS添加量の増大と共にMn^<2+>の発光強度が増大した。逆に、SiO_2修飾ZnS:Mn^<2+>ナノクリスタルにPhosHを添加すると、TEOS添加量が増大すると共にMn^<2+>の発光強度が減少した。^<31>P-CP/MAS-NMRから、SiO_2被覆層の導入によってZnS:Mn^<2+>-PhosH間相互作用が低下することが確認された。これがSiO_2被覆層導入による発光強度低下の原因であると考えられる。以上より、ZnS:Mn^<2+>ナノクリスタルにPhosHを修飾すると、量子閉じ込め効果や表面欠陥のキャッピング効果に加え、PhosHとZnS:Mn^<2+>との化学的相互作用を介して、Mn^<2+>の発光強度を増大できる。
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