水素吸蔵合金の中でも、ノンフロン型冷凍機等に利用が期待されている低温用水素吸蔵合金TiCr系合金に着目し、研究報告が殆どない室温及び室温以下における初期活性化機構、水素化反応機構の解明を目的として以下の研究を総合的に行っている。 <低温下での初期活性化機構、水素反応速度>TiCr_2金属間化合物をベースとし、室温以下でも水素を吸収・放出できる組成比を有するTi-Cr系合金について、初期活性化特性と水素吸収速度を室温以下で測定し、反応機構を追求した。600℃で4時間行なった熱処理後のTi-Cr系合金は263K(-10℃)でも0.87MPaの水素ガス圧力で容易に活性し、反応開始後10分で最大水素吸蔵量(H/(Ti-Cr)=3)まで水素を吸収した。大気放置、酸化・水酸化により表面被毒を施したTi-Cr系合金の反応速度の律速段階を推定するために、水素吸収速度の圧力依存性、温度依存性を測定した。その結果、合金表面汚染の進行と共に、律速段階は水素分子の金属表面での解離から、水素原子の金属表面被膜中での透過へと変化し、見かけの活性化エネルギーも表面被膜の成長とともに増大することが確認できた。今後、さらに低温度領域で反応機構を追求する。 <超高真空下での表面反応機構>低温でも容易に水素と反応するTi-Cr系合金の特異な性質を追求するために、構成元素のCrに注目し、水素、酸素および水との定量的反応性について測定を進めている。清浄表面を有するCrはFe、Ni、Coといった金属よりも、より高い水素との反応性を示す結果を得ている。今後、水分子との反応について追求する。 <カリウム表面処理による初期活性化特性>アルカリ溶液を用いたTi-Cr系合金表面処理は初期活性化には効果はないことが判った。しかし、金属カリウムを直接表面に付着させることで初期水素吸収速度を向上できることを見いだした。また、従来、アルカリ溶液による表面処理で効果があったLa-Ni系合金に対しても同様の手法を適用したところ、初期水素吸収速度に向上が見られた。今後、アルカリ元素の表面分布状態について追求する。
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