研究概要 |
水素吸蔵合金の中でも、ノンフロン型冷凍機等に利用が期待されている低温用水素吸蔵合金TiCr系合金に着目し、研究報告が殆どない室温及び室温以下における初期活性化機構、水素化反応機構の解明を目的として以下の研究を総合的に行っている。 ・低温下での初期活性化機構、水素反応速度としては、これまで、TiCr_2金属間化合物をベースとし、室温以下でも水素を吸収・放出できる組成比を有するTi-Cr系合金について、初期活性化特性と水素吸収速度を室温以下で測定し、反応機構を追求してきたが、ベースであるTiCr_<1.7>においても、同様の測定、考察を行なう為に、水素吸蔵特性の測定を行なった。その結果、測定温度197Kにおいて二段プラトーが確認できた。また、233Kにおいては一段目のプラトーが約10気圧のところに現れ、その平衡圧の高さが確認できた。さらに、液体窒素温度である77Kにおいては、TiCrl_<1.7>と水素との反応は確認できなかった。今後は、この水素吸蔵特性のデータから水素固溶体領域を確認し、TiCr_<1.7>の初期水素反応機構を追求する。 ・超高真空下での表面反応については、これまでに我々は希土類系水素吸蔵合金に着目し、希土類金属と水素、酸素および水との反応性について超高真空装置を用い研究を行ってきた。現在、冷凍型MHヒートポンプ等に用途が期待される低温用水素吸蔵合金のTi-Cr系合金に注目し、低温、低圧下におけるCr表面と水素、酸素及び水との反応性について定量的に調べている。これまでのところ、Crと水素の反応において酸化被膜及び水酸化被膜の影響によりCr表面が清浄な場合と比べ、水素の反応性が著しく低下する結果を得ている。 ・カリウム表面処理による耐被毒性については、本年度,本研究では,Ti-Cr多元系合金および,LaNi_5の初期水素吸収特性を乾式改質法と湿式改質法でカリウムを合金表面に添加することで,初期水素吸収特性を改善することを目的とした。Ti-Cr多元系合金では、金属K付着試料は水素と速やかに反応する事が確認された。(乾式法)一方,8-KOH水溶液アルカリ改質試料については,水素との反応は確認できなかった。(湿式法)また、LaNi_5においては、どちらの改質方法で表面改質を行っても,初期水素吸収速度が向上した。ESCAなどの表面分析結果から,Ti-Cr系における乾式改質では,合金表面には,酸化,水酸化膜が形成しているが,その厚さは薄く,その合金表面は金属的な性質を有していた。一方、湿式改質では合金表面には、厚い酸化、水酸化膜が形成しており、その合金表面が、絶縁体的性質を有していたため,水素と反応できなかったものと考えられる。また、LaNi_5では,その分析の結果から,両改質法とともに,似たような金属的な,合金表面状態を有していることが分かった。これらの結果から,アルカリ金属による表面改質で重要な事は,アルカリ金属と,合金表面とが作り出す金属的電子状態であることが言える。
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